細胞外マトリックス(ECM)の制御において、細胞外分子の細胞内への取り込み(エンドサイトーシス)による “分解”や“細胞外への再放出”(リサイクル)が、その“合成”と同等に重要であることがわかってきた。私たちのグループは、組織恒常性の維持およびその破綻過程における分子機序を解明すべく、特にプロテオリシスやエンドサイトーシスを介した動的な細胞外マトリックス制御に着目し、人間や動物の医療や産業への応用を目指した研究を行っている。
超高齢社会を迎えている日本をはじめとした多くの国々において、老化に伴う病気の理解と予防・治療法の開発は、重要な研究課題である。変形性関節症 (Osteoarthritis, OA) は罹患率が最も高い加齢性関節疾患であり、関節軟骨破壊による関節機能不全や疼痛が日常の運動能や意欲を低下させ、国民の健康寿命延伸の大きな妨げとなっている。しかし、OAに関する病態研究や予防・治療法には大きな遅れがあり、未だ疾患修飾治療薬は開発されていない。私たちは、軟骨分解酵素や様々なOA関連分子がエンドサイトーシス受容体であるLRP1を介して制御されていることを発見した。さらに、OA軟骨では、LRP1が細胞表面からプロテアーゼによって除去(シェディング)されることで、分解と再生のバランスが崩れていることを明らかにした。現在我々はOAの原因そのものに働きかける新たな疾患修飾型治療薬の開発を目指し、LRP1シェディングを抑制する方法の開発、およびLRP1保護の治療的可能性を、前臨床動物モデルやヒト臨床検体を用いて検証している。
特発性肺線維症(IPF)は、特発性間質性肺炎の中で最も高頻度かつ高致死率を誇る慢性進行性疾患であり、その主要な病理学的特徴としてI型コラーゲン線維の異常蓄積が挙げられる。現在のところIPFに対する根本的な治療法は確立されておらず、新たな治療標的の同定が強く求められてる。LRP1の一塩基多型は肺機能と関連することが報告されており、我々の最近の研究では、線維芽細胞におけるLrp1の欠失が、マウスIPFモデルにおける線維化の進行を著しく抑制することを明らかにした。これにより、LRP1はIPFの病態進行における重要な調節因子である可能性が示唆される。さらに、近年の研究においては、単量体のI型コラーゲンのクラスリン依存的なエンドサイトーシスが初期のコラーゲン線維形成に必要であることが示されている。これらの知見を踏まえ、我々はLRP1のコラーゲン代謝における分子メカニズムの解明を目指している。
1)骨格形成におけるLRP1の役割と新たな形態形成メカニズム
近年私たちは、初期の骨格前駆細胞におけるLRP1が、滑膜関節の形成と長骨の成長に不可欠であることを示した。我々は先天性骨格疾患の分子機序の解明に貢献すべく、LRP1による細胞外シグナル分子のエンドサイトーシスがどのように正確なモルフォゲン勾配の形成に寄与するしているのかを調べている。
2)LRP1の消化器官における機能解析
本研究では、Lrp1欠損マウスを用いて、胃や小腸における病態の変化とLRP1の細胞機能を解析する。オルガノイドやプロテオミクスも活用し、LRP1の生理的役割とその破綻による消化器疾患のメカニズム解明を目指す。
3)細胞の物理的刺激応答を制御する新規分子機序の解析
本研究では、エンドサイトーシス受容体LRP1が物理的刺激に応答し、細胞のメカノセンサー機能に関与する新たな役割を持つことに着目する。LRP1の発現変動や細胞内局在、メカノセンサー分子との相互作用を解析し、細胞の恒常性や再生医療への応用につながる新規メカニズムの解明を目指す。
| 准教授 | 山本 和博 |
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